種、花、
中学3年生の時の国語の先生の最後の授業が、10年近く経った今でも忘れられなくて、ふとした時に思い出してしまう。
そのふとした時、というのは決して毎日楽しく過ごして悩みなんて全然無い、ような時でなくて、辛くて辛くてどうしようもない時なのだけども。
卒業間近で、中学の授業の内容の履修を終わらせた僕たちに、どの科目の先生も伝えたいことを伝えられるくらいの余裕が出てきた頃。
人生経験のまだ浅い僕たちに、自分の経験談を含めた持論ともいえない、人生の話をしてくれる先生がちらほらいた。
国語担当だったM先生もその1人だった。
大学の仲良し同級生の中自分だけ教員採用試験に落ちたこと、初めて赴任した中学校がかなり荒れていたこと。
文章にすればそれなりの物語になりそうな話だった。
最後に先生が言ったのは、「とにかく、生きて」だった。
その直前に何を話していたのか、正直覚えていない。僕は、あまり綺麗事が好きじゃない。見えないものの力も信じない。でも、その言葉だけは綺麗事には聞こえなかった。その時はさして気にもとめなかった言葉が、ずっとずっと何年も経ってから、心の奥底から芽を出した。
先生の言葉は、植物の種だったんだ、と思った。僕の人生の時の流れがその種を育てて、何年も経ってやっと芽を出した。
最近もまた成長した。そろそろ花がつくような気がする。きっとこの花はもっともっと、僕が生きた分だけ大きくなるし綺麗に成長してくれるような気がする。